*今日はちょっとシリアスなお話を・・・(長いですが)。

精神科医をやって6年目。
最近よく思うことがある。

それは

「子供受難の時代だなあ」ということ。

自分たちが小・中学生だった時代と今とでは
格段に「生きやすさ」が違う気がする。

こう思うようになったのは、今の病院に勤めるようになってから。
今勤務している病院は「児童・思春期」を対象とした病院
といっても、メインは10代から30代までと幅広いんですが。

昔は「10代での入院」というと、
統合失調症や自閉症、精神発達遅滞、行為障害といった
いわゆる「脳の病気」がメインだった。
けど最近では上に加えて、適応障害や人格障害、PTSD、神経症、摂食障害といった
いわゆる「心の病気」が増えてきているような気がする。
(本当は10代で人格ができているわけではないので、10代で人格障害という診断はつけられないんだけど)

その理由はもちろん「時代の変化」もあるんだろうけど、
一番大きいのは「家族の変化」のような気がする。

昔はおじいちゃんやおばあちゃんと同居する「大家族」が当たり前で、子供が家に帰ると絶対誰かが家で待ってくれていた。
今ほどの情報化社会ではないから、両親の仕事も今ほど忙しくなく、夕食を家族で一緒に食べるなどあり、自然と家族の中の会話も多かった。

けど今は核家族が進んで、じいちゃんばあちゃんとは別居。子供が家に帰っても誰も居ないからモノで勝手に遊んでいるか、そこそこ大きくなったら塾に行っている。人間と接することに慣れないまま大人になる。
両親は仕事が忙しく帰宅も遅いから(中には離婚・再婚している親も多い)、自分のことで精一杯。子供と会話する時間も無い。当然食事を家族全員で食べることも少ない。当然会話も表面的で量も減って、結局親も子供もお互い何を考えているのか分からない。
たまの休みも普段から子供はヒトと接することに慣れてないから、いつものモノとだけで遊んでしまう。
親も子供が普段どんな生活をしていて何を考えているかなんて分からないから、どう接していいのか分からない。

結局子供は「親に対する信頼感」も無ければ、「自分に対する信頼感」もない。つまりは「人間に対する信頼感」がない。
人の気持ちが分からないから平気で人を傷つける(言葉・暴力)し、本当の意味での人とのコミュニケーションに慣れていないから、ちょっとした言葉に引っかかって簡単に傷つく。
自分に悩みがあったとき、表面上はいろんな人に相談はするけど、人への信頼感がないから「結局他人事でしょ?」「誰も私のことをわかってくれない」って思ってしまう。。
「自分の存在意義」を感じていないから「自分なんていてもいなくても一緒」「生きていてもいいことなんて何もないし」って思って、リストカットしたり大量服薬したりなどする。
けど親には「なぜ自分の子供がそんなことをするのかわからない」「私は一生懸命やってきたのになんで?」との思いから
子供を叱ったり、突き放したりする。それで子供は余計に親に相談できなくて、もっと自分を責めて自分を傷つける。

勿論そんな人ばかりではないけれど、私のところにやってくる10代の子の家庭はそんな家庭が多い。
つまりは「家族関係がうまくいっていない」人が多い。

そういう人たちを多く見ていると、
「現代という時代自体が病んでいる」様な気がしてならない。

子供も大変だなあと心底思う。
時代の流れについていけないといじめられるし、何かに秀でているといじめられるし・・・。
私が子供の頃にもいじめはあったけど(実際受けたけど)、今ほど陰湿じゃなかった気がするし。

精神科医をやっていて“この子、どうにかしたい!”って思うけど、「医療」として関われるのには限界がある。

結局のところ、医者(身体科も含む)ができるのはあくまで「サポート」でしかない。

精神科の場合
「脳の病気」はほかの身体的な病気と一緒で薬を飲めば寛解するけど、「心の病気」はそうはいかない。
「心の傷」って目に見えるわけじゃないし、血液検査みたいに客観的なもので見えるわけじゃないから、ただでさえ難しい。手探りで探していく感じ。本人が気づいていない場合もあるし、家族も気づいていないことが多いから、それを見つけるのも大変。
しかも「心の傷」に対する治療薬はない。

だから「心の病気」の場合、私は薬よりも何よりも「本人の治したいという意思」がまず大事だと思っている。
患者さんにも言う言葉だけど、「自分が治したいと心底思わない限り、こちらは手が出せない」。
医者やケースワーカー、心理士や看護師はあくまで「本人の直りたいという意思」を支えるサポーターにすぎず、あくまで「治療のお手伝い」しかできない。

ただ、若年者にそれを理解してもらうのは難しい。
だから家族や学校を巻き込んで話をするし治療にも加わってもらう。
何より患者自身と信頼関係を作らないと治療が進まない。
けど基本的に「人に対する信頼感」がない人が対象なので、かなり骨が折れる。
本人との信頼関係も大事だけど、家族との信頼関係も大変。
大体家族も不安定になっているので、そのサポートも必要だから。

最初「精神科」を選んだ時にはこんなにしんどいと思ってなかった。
けど、患者さんもスタッフも一生懸命がんばって苦労したケースほど、患者さんが次第に自立していくのを見るのはすごくうれしい。やりがいのある仕事だと思う。

コメント

お気に入り日記の更新

この日記について

日記内を検索